静岡県主催第2回ガストロノミーツーリズム研究会 アル・ケッチァーノ(アルケッチャーノ)奥田政行さんの講演会に参加してきた。

ガストロノミーツーリズム?

上手く書けるかどうかわからないがやってみる。

知人に何となく誘われて、何となく頭に残っていた情報が思い出されて「あ、時間がつくれるし行ってみるか」と後日思いついた程度の期待値の低いイベントだった。2022年11月下旬のことである。

その名も「ガストロノミーツーリズム研究会」

まるでビーフストロガノフ?が第一印象。

もらった案内には小さく第二回と記されている。それは12月12日に行われるらしい。

大きく書かれているキャッチコピーは「静岡の食を訪ねる旅へ」だ。イラストは魚やわさび果物野菜と富士山が書かれていたので、わたしみたいな素人が行っても大丈夫そうだとライトなイラストにも助けられて軽い気持ちで~…QRコードからgooleフォームを入力したのが始まりだった。

ほんとにチラシも大して見てないさとあやは前日になって、「そういえばどこでやるんだっけ」と見たら長泉のクレマチスの丘の中にあるヴァンジ彫刻庭園美術館と書いてある。(なんと驚いたことに2002年に開館した美術館は私の訪れた2週間後の12月26日を最後に長期休館に入ったとのこと。運営が変わることも前提とした無期限の休館だそうだ。そんなことも知らずに貴重な場所に行かせてもらったんだなぁと書きながらしみじみ思う。)

クレマチスの丘は車で前を通過したことしかない。なんだかセレブっぽい敷居が高いところだなと思っていた“あそこ”だ。中に美術館があることも知らなかったし、美術館の中の会議室でもあるのかねとそんなノリのさとあやであった。(と思ったら井上靖文学館には行ったことがあった。クレマチスの丘の一部だということを認識していないだけであった。)

当日仲間とは会場で待ち合わせということで、時間を30分も間違え早く着いてしまった私は、入り口で待つことはせず先にヴァンジ美術館の中に進むことにした。

入口にいきなり草間彌生さんの作品がド派手に登場。

どうやらこの日は休館日。入り口の受付の女性はガストロノミーツーリズム研究会の為の受付の人で、名前を言ったら「お待ちしてました佐藤様」と言われて、あれ…思ったよりもラフじゃない…ちゃんとしてる…とここでちょっと身が引き締まった(3ミリくらい)。

「この通路に沿って進んで頂きますと会場へ行くことが出来ます」と言われ入り口をくぐり進んでいくと、想像していたものではなく戸惑いしかなかった。

戸惑い、そこは本格的すぎる美術館だった。ヴァンジ彫刻庭園美術館という名の通り、庭園がそのまま美術館だし、いたる所にドキッとさせる彫刻がダイナミックに登場し佇んでいる。こんなにだだっ広いところにこれでもかという余白を使って置かれるそれらは贅沢の極みである。美術館自体は移住する前に立ち寄った上野美術館以来で、軽い気持ちで足を踏み入れてしまったちょっとした申しわけなさと場違い感を小脇に抱えつつも素晴らしい美術品で構築された空間をひたすら進んでいくことになった。

ひたすらという言葉が表す通り、会場につくまでの道が長い。そりゃそうだ、繰り返すがここは美術館で、私の考えていた道ではないのだから。一体いつ着くのだ、道は正しいのかと不安のまま進んで「30分間違えて早く着いてよかった」とも思った。

会場に到着したことが明らかにわかる場所にたどり着いた。機材がたくさん置かれ、絶賛設営中という状況だった。ほっとしてさらにゆっくり庭園を見ることにした。大理石っぽい床に壁という高級感がありすぎる会場で行われるこの「ビーフストロガノフ」のような名前の「ガストロノミーツーリズム研究会」という会に参加しようとしているこの私、大丈夫か…という気持ちはスタート時間に向けてどんどん膨張するのだった。

1人での時間を持て余し、ようやく仲間と合流することが出来た。「よっ!」という軽い挨拶と笑顔で、厳かな雰囲気の会場にやっとマンホールくらいの自分の居場所が出来た気持ちになった(笑)こんな素敵な場所に全身ワークマンでごめんなさいと心の中で詫びをいれる(いや、場所がわかっていても全身ワークマンだったとも思うけど)。

ちなみにこのイベントの主催は「静岡県スポーツ・文化観光部 観光交流局 観光政策課」であった。今回第二回目の特別講演としてお話しくださるのが、アル・ケッチァーノ(でも発音はアルケッチャーノ)オーナーシェフの奥田政行さんとのこと。さとあやは食に詳しいわけではない(食べるのが好きな普通の人)為、「どこかの誰かが話してくれるんだ~」くらいの低レベルな参加姿勢のさとあや。

にもかかわらず、仲間の勧めで最前列の真ん中に座ることになる。

周りを見渡すと県職員さんやバリっとスーツの人や料理人なんだろうなと思われる人たちが挨拶と名刺を交わし、薄暗いムーディな雰囲気を作り出す照明機材と音響機材がいっぱいある。カメラが数台あり、オンラインでも繋がっていることがわかる本格的なスタジオが目の前に広がっていた。

時間になり結婚式の司会者のような素敵な女性が開会を宣言する。今日のこの会はオンラインとオフラインの両方がいるということ前提に挨拶がなされ次々に県関係の偉そうな方々が有難いお話をスタートさせていく。


以下はチラシの内容そのまま載せておくことにする。今回の趣旨はこうだ。

「庄内のテロワールとガストロノミーツーリズム」

鶴岡市は、江戸時代から変わらない在来野菜が作られていたほか、西郷隆盛が無血開城したおかげで文化財も多く残っており、2014年にユネスコの食文化創造都市になりました。今、その歴史や文化財、食材と畑をつなげるガストロノミーツーリズムが進められています。 静岡県では439品目の多彩で高品質な農林水産物が生産されており、食の都と呼ばれています。講演では具体例を挙げながら静岡県でガストロノミーツーリズムを振興する方法について奥田シェフと一緒に考えていきます。

どうしてもこの会に奥田シェフを呼びたかったというラブコールの挨拶が終わり、それでは奥田さんお願いしますと例のチラシで見た方にバトンが渡された。

アル・ケッチァーノ奥田政行シェフ登場!何者?!この人?!

白いシェフの恰好をしているので、ど素人さとあやでもシェフだとわかる。ちょっと太っていてそれがまたシェフっぽい。早速ちょっとすっとんきょうな声で自己紹介がはじまった。おどけているような声でいて、しかしその声の奥にはこの方の何だかわからない自信を支える様々な知識と人脈が溶けている気がした。独特な声質は美術館という異質な緊張感を急激に緩めていく。話の内容テンポ知識量が最初の3分から洪水のようになだれ込んでくる。洪水と言っても災害のような激しさはない。自然な形でなだれ込んでくる。きっとそういう親しみやすさなども相当な方の前で話してきていることの賜物なのだろう。今日来てよかったと既に思っている自分がそこにいた。

チラシに書いてある奥田シェフの自己紹介をそのまままずは載せることにする。

奥田政行シェフ

1969年12月 山形県鶴岡市生まれ。

地元高校を卒業後に上京し、イタリア料理・フランス料理・純フランス菓子・イタリアンジェラートを修業。1994年に帰郷し、農家レストラン・ホテルにて料理長を歴任。 2000年、鶴岡市に在来野菜など旬の地元産こだわり食材を使った現在の店「アル・ケッチァーノ」を 独立開業。地産地消のフラッグシップとなる。

店舗営業の傍ら、2003年から3年間、酒田調理師専門学校の食材論講師を務める。講師と しての活動は、浜松光産業創成大学大学院・鈴鹿医療科学大学・新潟食料農業大学大学院で客員教授として、若手の育成に取り組む。また全日本・食学会の理事も務める。 2004年には山形県庄内支庁より庄内の食材を全国に広める「食の都庄内」親善大使に任命されている。

講演の割と最初に「自分は頭が悪いんですけど」と印象的なひとことがあった。確かにそう「だった」のかもしれないということがエピソードや、選ぶ言葉から伝わってくる。言い換えれば「自分は頭が悪い」という体験をしたことがあった人ほど、誰にでもわかるように単語を選び、話の流れを組み立てていく優しさがそこに見えるからだ。頭が悪いという言葉はきっと学歴とか偏差値のことを言っているのだと思う。奥田さんは世間一般で言う地頭のめちゃくちゃいい人だ。

パワーポイントを使いながら話す奥田さんであるが、パワーポイントの量が凄まじい。なので一瞬しか映らないページもある。多くは写真で、文字もほとんど入っていないのだが、それに合わせて怒涛のトーク。このトークも量が凄まじい。またパワーポイントのスライドも奥田さんの経験+目の前にいる客人によりページを送ったり、戻ったり、枝分かれがあったりというトークなので、目が離せないし聞き逃せない。そのためノートを膝に置いていたがメモを取ることは叶わなかった。

そんな情報量とスピード感溢れる講演会にお目にかかれることは滅多にない。しかもさとあやは食に関わっている人でも何でもない。こういう人に巻き込まれるこの時間はさとあやにとって貴重過ぎた。

奥田さんの話に戻ると、31歳の時に150万円の資金でアル・ケッチァーノというレストランをオープンさせた。山形県庄内平野のど真ん中にあるかわいらしいお店だ。ちなみにいかにもイタリア語っぽいけど実は方言「(ここに)あるけっちゃ~のぉ(ここにあるよ)」という意味だそうだ(笑)母音「あ」から始まって、母音「お」で終わる言葉はヒットするという法則に従ってつけているようなこともおっしゃっていて、そうやってどこにでも奥田さん理論が入り込んでくることが面白い。

講演のはじめにこの庄内という場所の説明をしてくれた。これもすごい勢いでお話してくださった故、私に残っている印象の話になってしまうのですが(間違っていたらごめんなさい)…以下のような説明だった。

庄内平野を取り囲む周りの土地は長らく発展してきた。高速道路も線路も引かれ、東京や都心部への往来が出来る状態になり、農家も変化をし都心の為の野菜作りになっていった。大量生産、必要とされるものを作るという農業だ。そして庄内平野はといえば田舎過ぎたのか?空襲を受けることもなく、色んな意味で上手に取り残された場所になったという印象の話だった。これだけ聞くと陸の孤島のようだが…。

その為歴史的建造物や、在来種の野菜がたくさん残っているという特異な場所になった。奥田さんはそれらに価値を見出して、ブランド化していったのだ。

アル・ケッチァーノは開業資金150万でお金がなかったから、最初とても苦労したのだそうだ。お皿は100円均一で揃えた。でも最初の一皿目は8000円のものを買った。カーテンレールも安いものを買うがカーテンは高いものを。人間の心理をよくわかっている。いや、それでは奥田さんぽいくないか。人の気持ちをよくわかっているし、観察しているし、真っ向から現実を見て、「正しい」と思ったことをやっているのだなと、どれをとってもその取り組みと考え方に感心しちゃう。

お金もない、人脈もない、ガスコンロも十分ない、使える人材といえばレベル高い人は雇えない、そういうないない尽くしだったからこそ考える力がついた。「頭のいい大学教授と在来野菜の研究をはじめたのだけど、大学の教授は頭が良すぎて話がつまらない。僕みたいなバカだけど面白い話は出来る人と一緒に活動するのはお互いにとってちょうどよかった。それで一緒に活動始めたら頭よくなっちゃいました」ともニコニコしながら言っていた。頭が悪いことを理由に止まることはなく、そこが凡人との差なのかもしれないなと感動した。

アル・ケッチァーノにある大きな黒板メニューもお金がないところから生まれた案だったのだが(これは地方創生のレシピという本に写真が載っているのだけど超素晴らしい!)、ぎっしり書き込まれたメニューは書体、字の大きさ、書かれている場所も全て戦略があった。普通に見ていたらわからない。そして奥田さんのこだわりとして、煮る、焼く、蒸す(他にもあったかな?)のすべての調理方法を提供するようにしている。それは同業者が来たときに「やるな」と思ってもらう為と言っていた。相手がだれであれ最高のおもてなしを用意しようという塊の人だ。

怒涛の講演会が終わってもまだ続く、次は奥田シェフとふじのくに地球環境史ミュージアム館長 佐藤洋一郎さんとの対談。これも面白い話たくさんあったのだけど…男女がそれぞれ人生を楽しく過ごすことに関して話したり、奥田さんの魚の見極め方や、地形から、歴史からその土地や食べ物を理解する視点など様々な話が展開された。

最後質問コーナーで、一番この会にふさわしくない私だけがまさか手を挙げた(笑)

つい、講演してくれた人の気持ちを考えると手を挙げる癖があるのだが、何を質問するか頭には浮かんでいない。当たってくれるなと強く思いつつ、私しか挙げていないので当たることになる(笑)

伊豆市で地域おこし協力隊をやっていますと自己紹介をしたものの何言ったらいいのかわからない中で、何とか絞り出したのは

「天城湯ヶ島という土地がすごく好きでどうにかしたいです!どうしたらいいですか!」

だった。我ながら吟味のないアホな質問だ…。Ω\ζ°)チーン

でも奥田さんは真剣に答えてくれた。おそらく5分以上この質問に真剣に答えてくれた。

  • 総論と各論を抑えること
  • 1やりたいことに対して3のやりたくないことをやること
  • 勉強をする時に右脳と左脳を使う作業を交互にやること

というアドバイスをくれた。会が終わった後も挨拶しに行ったら、そこでもまた素晴らしいお話を7分位か真剣にしてくれた。

「素晴らしいレストランを作るってなると「出来ない」って思うでしょ。でもね、この椅子に座ってみて?(テーブルに)肘ついてみて?」

「この椅子に対してこのテーブルだと肘つくのはちょっと低いでしょう?(肘の下に名刺の塊を敷いてくれて)これだとどう?肘つきやすいよね?つまり物書きの人にはこの肘がつけるような高さのテーブルがいいわけです。」

「次に僕との距離。」奥田さんはそう言って、テーブルの向かい側、さとあやの目線に奥田さんの顔を持ってきてくれた。

「テーブル挟んでこの距離だと近いでしょ?(ちょっと離れて)これだとどう?ちょうどいいよね?だから愛を語らう為にはこれくらいのバレーボールくらいの距離感がいいの。そうやってテーブルをつくるの。それなら出来るでしょ?」

と今あるものを使って実践的に、私が噛み砕ける大きさにして(感覚的に伝わるようにしてくれて)、さながら料理のように美味しい話を食べさせてくれた。きっとレストランもこういう感じなんだとあり方から、生き方から、言葉のチョイスから奥田さんのハイパーサーブを受けることが出来たのだった。

最後に奥田シェフと記念撮影です!

それにしてもすごい濃縮された講演で対談で質問コーナーで、メモも取れないし、理解も出来ないし、いわゆるいい意味での消化不良。それを解消するためにも参加者の前で質問した時におススメされた「地方再生のレシピ」という書籍を早速購入することにしたのだった。

本が届くのが待ちきれないので、奥田政行とネット検索をして、いくつもの動画を見させてもらった。どの動画も示唆に富んでいて、実践的で、料理に興味がない私でも楽しんでみることが出来たので是非見て頂きたい。見て面白かったyoutubeとりあえず2つ貼っておきます。

後日届いた「地方再生のレシピ」だが、なんとA4判だった!手のひらサイズを想像していたので想像よりも大きいぞ。そしてしっかりした装丁でそれだけでも1400円(税別)の本だなというのが第一印象だ。さらに表紙をめくってびっくり!表紙の裏(見返しという)の手書きのチャートに驚かされた。どう見ても奥田さんの手書きと思われるそのチャートの情報量…すごい。表紙裏から奥田さんらしい一冊になっていて、講演の熱量がそのまま本になったという感じである。1400円とは思えない詰め込み具合で、いい意味で読み進めることが困難な価値ある本であった。是非お料理好きな人や、地方創生に関わっている方にはお手に取って頂きたいと、心からお勧めできる一冊です。

久々にとても長く文章を書いたな~。しかも講演を聞いてから随分時間が経ってしまったな~。それくらい感動をたくさんもらって、だからこそ文字にできる自信が追い付かなかったし、文字に表せないくらいなら奥田さんらしさが欠如してしまうくらいだったら書かないほうがいいかなぁなんて思いつつ時間が経過してしまったのでした。でもやっぱりあまりに素晴らしい数時間だったので、書いてみることにした、そんなブログ回でした。少しでも興味を持っていただいた方は、youtube覗いてみてもらうといいかもしれません…!!

投稿者プロフィール

さとあや
さとあや
「すべての人に、ふるさとを。」
東京生まれ、東京育ち。楽天に入社し後半の5年間は「楽天トラベル」に所属。伊豆を担当した中でも「天城湯ヶ島」というエリアに恋をした人。東京からの移住に取り組むこと半年、伊豆市地域おこし協力隊に合格。そして7か月目ついに移住できる古民家に出会いました。天城湯ヶ島への想いと古民家プロジェクトを中心に綴ります。